実践倫理宏正会の会報誌「倫風」9月号
に
「それを云っちゃァおしまいだよ」
というタイトルの
小説家、童門冬二氏のエッセイがあった。
家康と大久保彦左衛門の話で
大阪夏の陣で
真田幸村の攻撃に虚を突かれた家康は
陣を捨てて逃げ出してしまう。
一方、彦左衛門は逃げずに陣の槍を守り抜いた。
しばらくして合戦の反省会があった時に
家康と彦左衛門とで
旗を捨てて逃げた逃げないの言い争いになった。
事実は逃げなかったので彦左衛門に分があったのだが
家康は旗にかこつけて自分の臆病をあざ笑っていると思い
二人の仲は気まずくなった。
彦左衛門の給与は現給の千石に据え置かれたままとなった。
このあとは文章をそのまま書かせていただく。
家康の言葉に、
「諫言は一番槍よりむずかしい」
というのがある。
私はこの事件をさしているのではないかと思っている。
「どんなに正しくても、主人にいっていいこととわるいことがある。少なくとも主人が反省し悩んでいることを深追いすべきでない」
映画『男はつらいよ』の寅さんの口を借りれば、
「それを云っちゃァおしまいだよ」
なのだ。
彦左衛門は徳川家のためにいったのだが、家康には伝わらなかった。人間関係はむずかしい。
どこまで言って
どこまで言っちゃいけないのか
いつも
難しい問題だ。
うちの人にも若い時には言いたい放題言って
いろいろあったが
その時だって言いたくて行ったわけでなく
やっぱり迷いながら
それでも思い切って言ったのだった。
いろんなことを言って来て
今に至るのだから
まあ よしということで。