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棒を振る人生

「棒を振る人生」佐渡裕 PHP新書

「棒に振った人生」でなく

「棒を振る人生」

世界的な指揮者、佐渡裕さんの新書です。

クラシック音楽はよくわからないのですが
佐渡さんの指揮を見るのは大好きです。

学校を出たわけでなく
何の後ろ盾もないところから
世界のひのき舞台で活躍するに至った
佐渡さんの音楽家として、
または人間としてのスケールの大きさは
並外れたものがありますが

それが
文章もとてもお上手で
感動的な文章をおかきになります。

読みやすくて
親しみやすくて
佐渡さんが体験する極上の
精神世界が描かれていて
最後まで飽きません。

河合隼雄さんとの話も感動的でしたが

指揮者に求められるもの
ということで書かれた
朝比奈隆さんの話は感動的でした。

 オーケストラは、指揮者の能力や人格を即座に見抜く。その部分でのごまかしはいっさいきかない。
 そうすると、指揮者に求められるのは、音楽的な求心力と同時に人間的な魅力ということになる。少なくとも人間嫌いには、できない仕事である。となれば、究極の指導者になるためには、究極の人間になるための修行が必要でないかと思うことさえある。
(中略)
 朝比奈隆先生の生涯最後となった演奏会は、二〇〇一年十月に名古屋で上演したチャイコフスキーの「交響曲第五番」だった。オーケストラは半世紀以上、ともに歩んできた大阪フィルハーモニー交響楽団。先生は九三歳で、そのおよそ二か月後の12月29日に亡くなった。
 重い足どりでステージに現れた先生は明らかに体調が悪く、楽団員二人の助けを借りて指揮台に上がった。そして、最初の一振りでオーケストラが鳴り出すと、譜面台に手をついたまま動けなくなってしまった。
 しかし、アンサンブルは少しも乱れることはなかった。演奏前に「これが最後の演奏となるかもしれない」と伝えられていた大フィルの楽団員たちは、涙をぬぐいながら、一人ひとり全身全霊を捧げて音を鳴らしていた。重いテンポながら強弱やリズム、フレーズの変化をつけて演奏は最後まで整然と続いた。
 そのときの朝比奈先生は、音のシンボルとして圧倒的な存在感でオーケストラの前に立っていた。それは指揮者の究極の姿だった。

「棒を振る人生」第二章 指揮者の時間 より